痛みに対する予防医学
大人の最大80%が生涯のうちに腰痛を経験すると推定されています。腰痛は、現代社会において最も衰弱させられ、費用もかかる健康問題のひとつです。統計を見れば一目瞭然。そして、更年期以降の女性は男性よりも腰痛を経験しやすいとも言われています。
本来、私たちの背中は一生涯にわたって私たちの体を支えるように設計されているはずなのに、これらの統計は非常に衝撃的です。さらに驚くべきことに、主流の医学では腰痛をうまく治療できておらず、かえって障害やオピオイド(鎮痛剤)への依存を増やしているのです。
【なぜ腰痛は誤解されているのか?】
多くの慢性腰痛の原因は、医療界では正しく理解されていません。
私たちは「腰痛は背中の組織が損傷または異常であることが原因だ」と教えられてきましたが、膨大な科学的研究によってそれが真実ではないことが明らかになっています。
たとえば、イギリスの医療雑誌に掲載された画期的な研究では、腰痛のない人の64%が、椎間板の膨隆やヘルニアなど何らかの異常が見られたことが報告されました。さらに興味深いのは、多くの慢性腰痛患者に対して広範な検査を行っても、何の異常も発見されないケースが非常に多いということです。
にもかかわらず、これらの“異常”は腰痛の原因として患者に伝えられているのが現実です。
伝統的な医療では、腰痛の主な原因としてよく以下のような要素が挙げられます。
• 加齢
• 運動不足
• 肥満
• 睡眠の質の低下
• 長時間の座位
• 重い物の持ち上げ
もちろん急性の怪我や筋肉の緊張が引き金になることもありますが、通常は自然に、または最低限の処置で回復します。
では、慢性腰痛の本当の原因とは何でしょう?なぜ痛みが続くのでしょうか?
【腰痛の本当の原因】
『ヒーリング・バックペイン』の著者であるジョン・サーノ医師の先駆的な研究を紹介します。
彼は筋肉の緊張や抑圧された感情が、慢性痛のサイクルを引き起こすことを明らかにしています。
サーノ医師は、「脳は痛みを使って、私たちにネガティブな感情を感じさせないようにする」と考えていました。彼は、腰痛や坐骨神経痛の多くは「Tension Myoneural Syndrome(TMS、緊張性筋神経症候群)」という状態に関係しているとし、これは筋肉が極度に緊張することによって起こると説明しました。
私もサーノ医師の画期的なアプローチを心から支持しています。
というのも、主流な医療が慢性痛の治療に失敗し(そして障害や薬物依存を悪化させている)中で、彼の方法は怒りや不安といった認識されていない感情が痛みのサイクルを引き起こすという点を見抜いていたからです。
こうした感情、特に「怒り」は身体的変化と症状を引き起こす原因となります。
だからこそ、単に身体的症状だけを薬や安静、手術で治療しても効果が出ないのです。
サーノ医師の診療では、痛みの心身的な原因を認識することにより、多くの患者が症状を改善させました。彼の方法を受けた患者の80%以上が改善を実感したといわれています。
【筋肉の緊張とストレスの関係】
多くの人は「痛みや病気は身体的なものだ」と信じ込んでいます。これは手放すのが難しい信念です。
でも、慢性痛を抱えた状態でバケーションに行き、痛みが消えた経験があるなら、それは「何か別の要因」が関係している証拠です。
その“別の要因”がストレスです。
ストレスを感じたとき、私たちのからだはまず「緊張」することで反応します。
戦うか逃げるか(fight or flight)のメカニズムが働くのです。
しかし、実際には逃げられないし、感情を表現することもできない。そうなると、慢性的に筋肉が緊張した状態が続きます。
感情が認識されずに蓄積すると、慢性的な筋肉の緊張が生じ、それが本物の痛みとなります。
面白い事に、“tension(緊張)”という言葉は感情面でも身体面でも共通して使われる表現です。
• 「気持ちが張り詰めている(tense)」
• 「筋肉が緊張している(muscles are tense)」
例えば筋肉がつったとき、動けず、他のことが考えられませんよね?
それと同じことが慢性腰痛にも起こっているのです。
実際、筋弛緩薬と抗不安薬(バリウム、アタバンなど)は同じ分類の薬です。
【慢性腰痛を癒す自然な方法】
すべての人が手術や薬を避けられるわけではありませんが、感情や心理的要因にアプローチすることで、誰もが改善の助けを得ることができます。
これは、通常の生活機能を取り戻すための鍵でもあるのです。
以下は腰痛に悩む方が自分でできるアプローチ:
- 医師による検査を受ける
重大な病気を除外するためにまず医師の診察を受けましょう。異常があってもなくても、マッサージセラピストや鍼灸師などの力を借りて定期的なメンテナンスを取り入れてください。 - ストレスに意識的に向き合う
「いつ痛みが出たか?」「その時何を感じたか?」などを自問することで、感情と痛みのつながりを見つけましょう。感情をしっかりと感じることで癒しが始まります。 - 身体を無理なく動かし続けること
慢性腰痛の多くは、筋肉の緊張と使われないことによるものです。柔軟性、筋力、持久力のトレーニングが鍵です。 - ネガティブな感情を表現する
溜め込んだ感情を解放することは、身体的な痛みをも和らげます。
「私はこの痛みに関係する怒りや悲しみを手放します」と唱えるだけでも良いスタートとなります。 - 自分の言葉に注意を払う
「私の背中は壊れている、治しようが無い」などの言葉は、無意識のうちに信念を強化してしまいます。
自分の言葉を聞き、自分を励ますような表現に変えていきましょう。 - 自分を責めない
感情が痛みに影響することを認めることは、「痛みは自分のせいだ」と責めることではありません。
受け入れることこそが癒しの第一歩です。 - マインドフルネスを実践する
今この瞬間に注意を向けることが、痛みや将来への不安を和らげます。 - 感情日記をつける
1日15分、自分の感情(怒り、悲しみ、不安など)を書き出してみましょう。これはストレス軽減と免疫機能の向上にも効果があると科学的に証明されています。
最後に。
心理的・感情的なストレスは、あらゆる病の要因になり得ます。
そして、それが解放されないままでいると、痛みも続いてしまいます。
でも、ストレスは人生の一部です。
だからこそ、紹介したようなシンプルな方法を、日常の健康的な習慣として取り入れていくことが、心とからだのつながりを活かして痛みを癒す力となります。